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電子署名法とは?電子契約を導入するうえで理解しておきたいポイントを徹底解説

2021年5月12日にデジタル改革関連法の成立によって宅地建物取引業法が改正され、2022年5月には、重要事項説明書や契約書の電子署名での交付、契約時の押印廃止が全面解禁される予定です。これからますます電子契約の導入が進むと考えられます。

電子契約の導入をする際には、オーナーや入居者からの理解が必要です。電子契約に代わるうえで不安になるのが安全性。電子契約の安全性における法的効力をオーナーや入居者にスマートに説明ができるためにも、企業としては「電子署名法」についても理解する必要があります。

本記事では電子署名法の概要から仕組みに加えて法制定の背景からポイントになる第2条と第3条を解説します。電子署名法を理解して、電子契約の安全性が説明できるように準備をしましょう。

電子署名法とは

電子署名法の概要

電子署名法とは、電子契約書にて「本人が作成したという証明」と「改ざんがされていない正確な書面である」という法的効力性をもたせるために必要な電子署名に定められた法律です。

電子署名法の正式名称は「電子署名及び認証業務に関する法律」であり、2001年4月1日に施行。全6章・47条で構成されています。

「本人が作成したという証明」と「改ざんがされていない正確な書面である」という点を証明するために、認証局という第三者機関の審査によって本人確認がおこなわれ、電子証明書が発行されます。

電子署名の仕組みについては後ほどご説明します。

そもそも電子署名とは

電子署名とは「紙媒体の契約書でおこなってきた署名・捺印を電子上でおこなうこと」です。

従来の紙媒体で契約書を交わす際には、本人確認をおこない、対面での契約書の確認、そして契約書に署名・捺印と契約書のページごとに割り印をします。これによって改ざんや捏造を防ぐことが可能です。

しかしPDFを利用した電子上の契約書では書き換えが容易になされる可能性が高いため、改ざんがされていない正確な契約書であると証明ができる署名・捺印に代わる法的効力の高いものが必要となりました。

そこで、第三者機関によって本人認証ができるシステムを構築し、法律を制定しました。

電子印鑑と電子サインとの違い

電子印鑑と電子サインとの違いはどのような点なのでしょうか。

電子印鑑とは、印鑑を電子データ化したもので、電子文書に捺印できます。電子印鑑の作成は、有料のものもありますが、WordやExcelや無料で作成できるものなので、改ざんやなりすましができる点において電子署名とは違う点でもあり、注意が必要です。一般的には社外では使用せずに、社内での稟議書などの書類チェック時に使用されています。

電子サインとは、電子データ化された文書に利用される署名であり、電子署名よりも広く簡略的に利用されています。たとえば、私たちの生活の中で利用しているものといえば、クレジット決済でのお買い物の際に利用するタブレット上でおこなうタッチペンでのサインです。他にもメールによる本人確認や指紋などの生体認証も電子サインといえます。一見、電子署名と電子サインは似ているので混合されそうですが、電子署名は電子サインというカテゴリーの一部であり、電子署名法という法律上にあるのでより高い法的効力を持ちます。

電子署名の仕組み

電子署名はペアとなる秘密鍵と公開鍵を利用する「公開鍵暗号方式」と「ハッシュ関数」を使用したIT技術によっておこなわれています。

「電子証明書」と暗号化のIT技術によって電子データの作成者と、作成後のデータが改ざんされていないことを証明できるようにした仕組みで、電子署名の流れは以下のとおりです。

(送信者=A・受信者=Bとする)

  1. Aは特殊な関数(ハッシュ関数)で電子データを圧縮しハッシュ値を作成する
  2. Aは相手側に渡すデータに認証局から取得した秘密鍵にてハッシュ値を暗号化する
  3. Aは電子証明書を使用して電子署名
  4. Aは公開鍵と電子証明書を使用して相手側に電子データを送る
  5. Bは受け取った電子証明を認証局に確認
  6. Bは受け取った電子文書を圧縮し、ハッシュ値を作成する
  7. Bは電子署名にある公開鍵で暗号化されたハッシュ値を復号化する
  8. Bは復号化したハッシュ値と作成したハッシュ値が一致したことでA本人からのデータであるかを確認する

また、電子署名には紙媒体での署名や押印と違い、改ざんがされやすいことから、「電子証明書」と「タイムスタンプの付与」が必要です。

「電子証明書」とは指定認定局によって発行されるものです。電子データで文書を受け取った際に、電子署名と電子証明書の一致によって、文書が改ざんされていないかを確認できます。紙媒体での契約書における印鑑証明に代わるものが電子署名の電子証明書となります。

「タイムスタンプ」とは、電子データによる契約書などに日時付きで押して記録するもので、その日時に文書が存在していたこと、文書に改ざんされていないことが確認できます。紙媒体での契約書における割り印に代わるものが、タイムスタンプとなります。

「公開鍵暗号方式」、「ハッシュ関数」、「電子証明書」、「タイムスタンプの付与」によって電子署名の法的効力が発揮できます。

電子署名のメリット

電子署名を利用することでのメリットは以下のとおりです。

  • ペーパーレスになり紙や印紙代のコスト削減につながる
  • 印紙代が不要になるのでコスト削減につながる
  • 契約業務や管理業務がスピーディーになり業務の効率が良くなる
  • 書類保管スペースが不要になり省スペース化となる
  • セキュリティ面で安心できる

初めの導入までに、社外に理解してもらうことや社内の業務フローの更新などに時間と労力を要しますが、導入後のメリットのほうが圧倒的に多いです。

電子署名法制定の背景

従来は紙の契約書に署名・捺印がおこなわれてきました。重要事項の説明や契約時には対面での契約が義務付けられてきたこと、紙媒体の契約書には改ざんが難しいという点からも長年使用されてきました。

しかしインターネットの普及から、企業間だけでなく私たちの生活までネット上での取引が多くおこなわれるようになりました。電子商取引や電子申請の需要も高まります。

紙の契約書から電子契約書に代わるなかで、紙媒体の契約書に比べてPDFを使用する電子契約書には、簡単に改ざんされてしまう可能性があるという理由からも正しい文書であるとの確認方法として電子署名や認証業務がおこなわれるようになりました。

当時は暗号化した電子署名や認証業務にて電子取引をおこなっていましたが、紙媒体の契約書におこなう署名・捺印と同じ法的効力があるものではなかったために、電子取引の普及には至らなかったのです。

そこで電子取引に関連する以下の法律が定められていきます。

  • 1998年7月:電子帳簿保存法
  • 2001年4月:電子署名法
  • 2005年4月:e-文書法

この電子署名法によって電子契約が法的に有効となったのです。

電子署名法の第2条と3条を理解することが大事

民法上では、口頭での契約も成立することが認められています。

しかし書面がないと契約時の条件を忘れてしまったり、契約締結後にトラブルが起こった場合には解決に至りにくくなったりします。そこでトラブル時でも対応できるように、裁判上で効力を持たせるものとして書面での契約が一般的です。

書面での契約書には、民事訴訟法民訴法第228条 第4項によって「私文書は本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」とあります。これに対応して電子契約の法的効力も定められました。

電子署名法の全体像

電子署名法は以下のように全6章・47条で構成されています。

  • 第一章:総則(第一条・第二条)
  • 第二章:電磁的記録の真正な成立の推定(第三条)
  • 第三章:特定認証業務の認定等
  • 第一節:特定認証業務の認定(第四条〜第十四条)
  • 第二節:外国における特定認証業務の認定(第十五条・第十六条)
  • 第四章:推定調査機関等
  • 第一節:指定調査機関(第十七条〜第三十条)
  • 第二節:承認調査機関(第三十一条・第三十二条)
  • 第五章:雑則(第三十三条〜第四十条)
  • 第六章:罰則(第四十一条〜第四十七条)

参照:電子署名及び認証業務に関する法律|e-gov

電子署名法における電子契約に関係するのは第1条〜第3条です。第1条においては電子署名法が成立された目的が述べられています。その中でも第2条と第3条を理解することが大事です。

主なそれぞれの内容としては、第2条では電子署名を作成する要件が述べられ、第3条では電子契約の真正な成約について述べられています。

それでは次に電子署名法第2条と第3条をそれぞれご説明します。

電子署名法第2条

電子署名法第2条の条文は以下のとおりです。

この法律において「電子署名」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。
2 この法律において「認証業務」とは、自らが行う電子署名についてその業務を利用する者(以下「利用者」という。)その他の者の求めに応じ、当該利用者が電子署名を行ったものであることを確認するために用いられる事項が当該利用者に係るものであることを証明する業務をいう。
3 この法律において「特定認証業務」とは、電子署名のうち、その方式に応じて本人だけが行うことができるものとして主務省令で定める基準に適合するものについて行われる認証業務をいう。

引用元:電子署名及び認証業務に関する法律|e-gov

電子署名法2条には電子署名の要件について述べられています。以下の要件を満たした場合には電子署名法に基づく電子署名と認められます。

  • 署名をしたものが電子契約書の作成をしたものと一致していること(本人性)
  • 電子契約書や改ざんされていない正確な書面であること(非改ざん性)

現行による公開鍵暗号技術を用いた電子契約においての本人性とは第三者機関である認証局によって発行される電子証明書のことであり、非改ざん性とはハッシュ関数によるタイムスタンプのことです。

2条2項、3項における認証業務とは、第三者によって本人による電子署名を証明することです。そして特定認証業務とはより確実性が高い電子署名を用いるものになります。認証業務は民間会社がおこなえることが認められており、「電子認証局」と呼ばれています。電子認証局の認定基準は第4条以下に述べられています。

電子署名法第3条

電子署名法3条の条文は以下のとおりです。

電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。

引用元:電子署名及び認証業務に関する法律|e-gov

要約すると、電子署名法2条の要件を満たした電子署名が本人によっておこなわれている場合、法的効力がある電子契約であると認められると述べられています。

電子署名法2条1項に関するQ&A

2001年4月に電子署名法が施行されたにも関わらずに普及へとつながらなった要因には以下の理由が考えられます。

  • 電子署名法2条と第3条の内容が抽象的である
  • 電子署名を利用する際に不可欠である電子証明書の発行の手続きに時間を要する

その中で、新型コロナウイルスの影響でテレワークが推奨されたことから動きが出ました。

2020年7月17日に総務省、法務省、経済産業省から公表された「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ &A(電子署名法2条1項に関するQ&A)」では、以下のように述べられています。

電子署名法第2条第1項第1号の「当該措置を行った者」に該当するためには、必ずしも物理的に当該措置を自ら行うことが必要となるわけではなく、例えば、物理的にはAが当該措置を行った場合であっても、Bの意思のみに基づき、Aの意思が介在することなく当該措置が行われたものと認められる場合であれば、「当該措置を行った者」はBであると評価することができるものと考えられる。

引用元:利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法2条1項に関するQ&A)|経済産業省

つまり政府は、電子証明書を発行しなくても、第三者の署名においても当事者間の意思によるものであれば、当事者の署名であると認めらるとの見解を述べました。

これによって、第三者による事業者型と呼ばれる電子契約の法的根拠が認められ、スムーズに手続きができるようになり、企業が提供する事業者型の電子契約サービスを導入する会社も増えています。

まとめ

電子契約を導入するうえで理解しておく必要がある「電子署名法」についてご説明しました。法的効力のある電子署名であることを理解することで、オーナーや入居者も安心して電子契約を取り入れることができるでしょう。

迫る2022年5月の法律の施行に向けて、電子契約の導入準備をおすすめします。