2017年から賃貸借契約のIT重説が本格的にスタートし、2021年からは不動産売買取引でも本格運用が開始しました。
2020年以降に新型コロナウイルスが流行し、非対面で重要事項説明を受けられるIT重説を導入する不動産会社が格段に増えています。
IT重説は不動産会社・入居者ともにメリットがあるので、積極的な導入が進んでいます。
ただし、注意しなければならないポイントもありますので、本記事ではIT重説の注意点や対応方法などについて解説していきます。
IT重説の遵守事項とその対応方法
IT重説は不動産会社・入居者ともにメリットがあるので、導入する不動産会社が増えています。
IT重説を行う際には、遵守しなければならない事項がいくつもあるため注意が必要です。
この章では、遵守事項とその対応方法について解説していくので、IT重説を行うときの参考にしてください。
IT重説実施に関する関係者からの同意
IT重説を実施するときには、事前に入居予定者の同意を得なければなりません。
同意の取得にはいくつかの方法が許容されますが、主に以下3つがあります。
- 書面による同意書を作成し、郵送して記名押印をもらう
- 同意書をデータ化して、電子サインをもらう
- 同意書の内容をメールに記載し、本人確認をしたうえでメールにて同意を取得する
IT重説実施に関する同意書は、入居予定者だけでなく物件の貸主からも同意を取得する必要があります。
貸主・借主双方からの同意を書面などでもらうことにより、不動産会社のトラブル回避に繋がります。
開始前にお客様の重要事項説明書などの準備とIT環境が整っているか確認
IT重説を実施する前に、送付した重要事項説明書がお客様の手元にあるか、電波状況も含めてオンラインで相互にコミュニケーションが取れる環境が整っているかを確認しましょう。
IT環境が整っていない状態でIT重説を進めても、入居予定者が聞き取りづらかったり画面が見えづらかったりすることがあり、途中でIT重説を拒否されるおそれがあります。
特に、IT重説を行う不動産会社の準備が大事です。
- カメラは宅地建物取引士証が鮮明に映るか
- マイクは音声がはっきりと判別できるか
- ネット環境は十分に接続しているか
入居予定者から途中で書面での対応を求められる等を防止する為にも、IT重説を実施する前に必ず確認するようにしましょう。
重要事項説明書などの事前送付
入居予定者に契約書や重要事項説明書などの書類を事前に確認してもらうためにも、IT重説を行う日程までに速やかに送付しましょう。
重要事項説明書は取引士の記名押印したものを2部送って、IT重説後に1部は返送してもらいます。
スムーズな説明を行うためにも、説明箇所に印を付けたり付箋を貼ったりして入居予定者が書類を見たときにわかりやすい工夫をしておくと喜ばれるでしょう。
なお、重要事項説明書は電子交付が認められていますので、電子化したファイルを入居予定者に送信することも可能です。
宅建士証をお客様が視認できたことの画面上での確認
入居予定者に重要事項説明を行うときには、宅地建物取引士証を提示しなければなりません。
また、IT重説実施の際に以下事項の確認が必要です。
- 録画や録音の実施
- 説明の相手方の本人確認
- 電子書面交付されたファイルの確認
- 電子書面交付によるIT重説の実施
- 必要に応じたIT重説の中止
電子書面交付の場合は、IT重説の実施前に送付したファイルが改ざんされていないかを確認してからIT重説を実施しましょう。
IT重説の中断
インターネットを利用したオンラインでのやり取りの場合、通信トラブルが起きることがあります。
突然パソコン機器や通信環境が悪くなり、やむをえずIT重説を中断せざるを得ない状況になることも想定しておきましょう。
参考:国土交通省|宅建業法にかかるITを活用した重要事項説明等に関する取り組み
IT重説の中止
IT重説の同意後や実施中でも通信状況や端末のトラブル等により、入居予定者はIT重説の中止を求めることができます。(拒否する旨は、国土交通省の定めるマニュアル上の遵守事項に従って取得する必要があります)
また、不動産会社は上記トラブルに応じて、対面に切り替える等も適切に判断することが大切です。IT重説を再開するにあたっても、入居予定者の承諾を得て実施するようにしましょう。
参考:国土交通省|宅建業法にかかるITを活用した重要事項説明等に関する取り組み
IT重説の注意点・留意事項とその対応方法
IT重説によって起こるトラブルを事前に回避するために、不動産会社が注意しておくべきポイントを6つ解説していきます。
不動産契約は1つのミスが大きなトラブルに発展する可能性があります。
トラブルにならないためにも、1つずつ見ていきましょう。
本人確認の実施
本人確認を行うことがトラブル回避に繋がりますので、必ず本人確認を行いましょう。
建物賃貸借取引において本人確認(取引時確認)は法令上必須ではありませんが、商習慣上行うことが多いです。
画面越しに身分証明書や社員証など第三者が発行した身分証などから入居予定者本人であることを確認します。
送付する重要事項説明書への工夫
不動産会社からすれば重要事項説明書は見慣れていますが、入居予定者からすると難しい用語が並んでいる書類でわかりにくいものです。
そのため、入居予定者へ送付する重要事項説明書または電子書面には、わかりやすいようPDF編集ソフトなどを使ってマークや資料番号、マーカーなどで強調したりしてあげると親切でしょう。
特に確認すべき箇所を別途わかりやすいように示すなどの工夫をしてあげることで、円滑にIT重説が行えます。
なお、入居予定者がスマートフォンで確認する場合は、事前に確認して電子書面のサイズをA3からA4サイズに変更しておくと閲覧しやすくなります。
通信障害や機器トラブルが起こる可能性がある
インターネットを利用したオンラインの場合、通信障害や機器トラブルなどによって音声や画面が繋がらないことがあります。
そうならないためには、ソフトウェアトラブルやハードウェアトラブルなどが起こっていないか事前に確認することが大切です。
もし、IT重説の途中で通信障害や機器トラブルが起こり切断された場合は、再開にあたって相手と確認し、再開が難しい場合にはIT重説の中断、対面での重説に切り替える等の対応をとりましょう。
認識合わせ・意思の疎通がしづらい
オンラインで行うIT重説の場合、対面とは異なり説明している内容が通じているのかがわかりづらいときがあります。
対面の場合だと物理的な距離も近いこともあり、入居予定者が重要事項説明を理解しているかどうかはその場の反応を見てわかるため、補足説明などのサポートができます。
IT重説の場合は、入居予定者の反応が掴みづらいこともあるので、対面での説明以上に反応を確認するようにしましょう。
こまめに確認することで意思の疎通がとれ、お互いの認識を合わせることができるようになります。
内見の実施
県外にお住まいの方の場合、急な転勤によって時間的な余裕がなかったり、新型コロナウイルスの影響によって内見できなかったりするケースがあるでしょう。
このような場合は、内見をせずに物件を決めることになります。
契約締結までに内見をしておいたほうが入居予定者・不動産会社双方にとって良いのですが、内見することは義務ではないので、内見をせずに申し込むことはできます。
なお、契約後のトラブルを防ぐためには、オンライン内見を利用することも効果的です。
録画・録音への対応
IT重説を実施する際は、言った・言わないなどのトラブルを防ぐために録画・録音することをおすすめします。
録画・録音中には個人情報が含まれるので、個人情報保護法の観点からIT重説をする前に個人情報の利用目的等に関する同意を入居予定者から得る必要があります。
録画義務はありませんが、IT重説の実施から完了まですべての時間を録画・録音することにより、不要なトラブル回避に繋がります。
後で見直してもはっきりわかるよう、一定の品質を担保した録画・録音を行うようにしましょう。
まとめ
さまざまな契約事がオンラインでもできるようになり、不動産取引でもIT重説などを積極的に導入する不動産会社が増えています。
IT重説をきっかけに、部屋探し・オンライン内見・契約まで、不動産会社に来店しなくてもオンラインですべてのプロセスができるようになりました。
来店する時間や手間を省くことができるので、不動産会社に来店できないお客様にとっても不動産取引が非常に便利になっています。
本記事で解説したようにオンラインだからこそ起きるトラブルに気を付ける必要はありますが、便利で効率化が図れるので時代の流れに合わせた顧客対応をとるようにしていきましょう。