テックニュース

不動産鑑定士とは?仕事内容やキャリアパス、資格の取り方を解説

不動産鑑定士は、不動産を様々な視点から客観的に調査し、不動産の評価や有効利用を適切に分析し、不動産鑑定評価書を発行する高等な専門家です。
不動産鑑定士は全国に8,400人ほどおり、難易度の高い国家試験と鑑定協会から認められた者だけです。

この記事では、不動産鑑定士の仕事内容・キャリアパス・資格取得の手順を分かりやすく解説します。
参考になれば幸いです

不動産鑑定士とは

不動産鑑定士とは、不動産の適正価格や賃料を算定する、国家資格をもった不動産の専門家です。
不動産は一つひとつ違う個性があるため、鑑定士が細かく分析調査し、適切な評価かどうかの判定や再評価をします。
これは、難易度の高い国家資格を持った人にしかできない、不動産のプロとしての独占業務です。

不動産鑑定の流れは、公的機関や個人、民間企業といったところが依頼をし、鑑定士が不動産を調査して不動産鑑定評価書を発行します。
下記ではより具体的に、不動産鑑定士の職務や役割を、順をおって解説します。

不動産の経済価値を決めることができる資格

不動産の売買価格は、さまざまな要因によって決定します。
例えば不動産を売買する際に、価値を判断するためには以下の3つを考慮しなくてはなりません。

  • ①当事者の言値
    ②近隣の売買取引の相場
    ③公示地価

当事者の言値で全てが決まってしまうと、知識のない人は相場より安く売却したり、高く購入したりと公平ではない売買が生じてしまいます。
こういった事態がおきないために行政が毎年、土地鑑定委員会に鑑定評価を依頼をして、不動産鑑定士が不動産価格の基となる基準を決めています。
依頼内容は下記のようになっています。

  • ・公示地価は国交省が依頼をし、区画ごとに2名以上の鑑定士の評価により価格を決める
    ・地価調査は都道府県が依頼をし、区画ごとに1名以上の鑑定士の評価により価格を決める
    ・路線価は公示地価や売買実例価格、鑑定評価などを基に決める

国土の不動産評価を基準として、個人や企業で不動産売買をする際に参考とするので、不動産鑑定士は経済価値を決めることができる資格といえます。
ほかにも、各市区町村が依頼する固定資産税評価や、裁判所が依頼する場合もあります。

土地の売買・交換・贈与など様々なニーズ

不動産鑑定士は不動産の価値を評価して、土地の売買・交換・贈与などの様々なニーズに応じてコンサルティングをします。
不動産鑑定士に依頼すると、土地の価格が適正かどうかを正しく判断するので、依頼者にとって下記のようなメリットが生じます。

  • 例)
    ・悪意のある個人や業者から不動産の価値を守る
    ・購入しようとする不動産の有効利用の判断
    ・贈与の際のアドバイス

そのため個人や企業が、不動産鑑定士に依頼をするケースが多くなりました。

ニーズに応えるには多くの専門知識が必要

前項で紹介したニーズに応えるためには、不動産の知識だけでなく、様々な専門知識が必要不可欠となります。

  • 例)
  • ・法律
    ・経済
    ・会計

専門知識だけではありません。
物件ごとに違う条件の中で様々な視点から鑑定評価をするので、論理的な思考と複雑な計算力が必要です。

不動産鑑定士の社会的役割

不動産には複雑な借地権があり、借地代や家賃などの経済価値が絡みます。
そのため、上記で紹介したように専門的な知識が必要となります。
不動産の適正価値を不動産鑑定評価書としてわかりやすく提示し、公平な取引に寄与するのが社会的役割です

不動産鑑定士の仕事

不動産鑑定士の一般的な業務内容は、2種類に大別されます。

  • ①不動産鑑定評価書の作成
    ②幅広いコンサルティング業務

不動産鑑定評価書の依頼は、個人や民間の企業の他に公的機関からのものもあります。
コンサルティングは、投資をしている企業が不動産の価値や運用した場合のシミレーションなど、不動産投資のアドバイスをするイメージです。

それぞれ詳しく紹介していきます。

資格保持者だけができる、不動産鑑定評価

不動産の鑑定評価は、資格保持者だけができる独占業務です。
不動産鑑定評価書の作成は下記の手順で行います。

①依頼受注・ヒアリング
 依頼者から受注内容について詳しくヒアリングします。
②資料の確認
依頼者から提出された不動産の資料を確認。
③役所・法務局で調査
役所や法務局で、不動産の内容に間違いがないかか調査をします。
④現地調査
実際に現地に行って資料と相違がないか、様々な視点から不動産を調査します。
 資料だけではわからないことが現地調査をすることで明確になります。
⑤鑑定評価書の作成
厳密に調査した内容の基、不動産鑑定評価書を作成します。
論理的にわかりやすく文章作成することが求められるので高度な文章力も必要です。

活躍の幅が広い、コンサルティング

コンサルティングは、個人や民間企業からの依頼で土地を「売りたい・買いたい・貸したい・贈与したい」などの場合に、下記のように厳密な調査とシミレーションを基に幅広いコンサルティングを行います。

  • ・土地や建物の価格を評価
    ・土地や建物の有効な使い方
    ・賃料の相場の算定
    ・贈与の際のアドバイス

また、行政からも土地を評価をする際に不動産鑑定士に依頼をします。
公的機関からの依頼は、下記が挙げられます。

  • ・国交省の地価公示
    ・都道府県の地価調査
    ・市区町村の固定資産税評価
    ・国税庁の相続税路線評価
    ・裁判所からの依頼

不動産鑑定士のキャリア

不動産鑑定士のキャリアパスの代表例には下記が挙げられます。

  • ・企業内鑑定士として働く
    ・投資会社の顧問コンサルティング業
    ・金融業の社員として働く
    ・独立して開業する

不動産鑑定士の平均年収は700万円〜1,000万円です。
年齢によって違いますが参考にして下さい。

企業内鑑定士

企業内鑑定士は不動産鑑定会社の社員や、投資会社の不動産投資部門などで不動産鑑定士として業務をします。

  • ・不動産鑑定業
    ・不動産投資顧問業
    ・金融業

企業に就職する場合と、個人で開業する場合の年収は下記のとおりです。

不動産鑑定業

不動産鑑定会社で一社員のサラリーマンとして業務を行います。
個人や民間企業からの依頼や、公的機関からの依頼によって不動産鑑定評価を行います。
【不動産鑑定業の年収】600万円〜1,000万円

不動産投資顧問業

不動産投資顧問業は2種類あります。
①一般不動産投資顧問業
 一般不動産投資顧問業は、投資の判断について助言をするコンサルティングです。
②総合不動産投資顧問業
総合不動産投資顧問業はコンサルティングと不動産投資を一任または一部を顧客のために不動産取引まで行います。
【不動産投資顧問業の年収】700万円〜1,500万円

金融業

金融機関や信託銀行などで取引先の依頼で不動産鑑定評価や、金融業務全体の業務をすることとなります。
【金融業の年収】600万円〜1,300万円

独立開業

不動産鑑定士は以下のような理由から、独立しやすいと言われています。

  • ・初期投資が少ない
    ・在庫がない
    ・自宅でも始められる

独立開業は、会社を立ち上げ、個人で営業をしながら仕事を貰います。
例えば下記のような相手に営業をかけて、仕事を安定させていくイメージです。

  • 例)
    ・市区町村の評価員
    ・弁護士や弁理士
    ・土木事務所や管財課
  • ・民間の建設会社や不動産会社


不動産鑑定士として企業に属さない場合は、ほとんどの人が独立をするようです。
【独立開業の年収】
400万円〜1,500万円

不動産鑑定士になるには?

不動産鑑定士になるには、難易度の高い国家試験や実務修習を受けて「不動産鑑定士」と認められる必要があります。
しかし、不動産鑑定士の道のりは長いです。
数ヶ月勉強しただけでは、まず試験に合格することは難しいでしょう。
難易度の高い国家資格の一つとして有名で、ちょっと勉強しただけでは試験を突破することはできません。

不動産鑑定士なるためには、以下の手順が必須になっています。

  • ①不動産鑑定士試験の短答式試験に合格
    ②不動産鑑定士試験の論文試験に合格
    ③実務修習を受ける
    ④実務修習の修了考査に合格
    ⑤都道府県の不動産鑑定士協会に登録

①の短答式試験は、宅建を持っている人であれば何ヶ月か独学で勉強して合格することは可能ですが、②の論文試験は、ほぼ無理と思ったほうが良いでしょう。
論文試験は知識と文章力が試され、どういう論文が正解なのか自分で判断することが極めて難しいです。
よほど論文が得意な人でないと独学で合格することは困難でしょう。
お金がかかっても時間と効率を考えて予備校を利用するのが1番の近道といえます。

ここからは、不動産鑑定士試験と実務修習の2つに分けて、詳しく解説していきます。

不動産鑑定士試験

毎年800人ほどの受験者に対し、合格者は120人ほどの不動産鑑定士試験。
国家試験の中でも難易度の高いと言われている、司法書士や公認会計士と肩を並べる難易度です。

しかし意外にも、受験資格がなく誰でも受けられる試験です。
少しの勉強で合格できる試験ではありませんが、しっかり対策することで合格できる国家資格です。

  • ①試験の概要、スケジュール
    ②合格率、合格ライン、勉強時間の目安

不動産鑑定士試験について、上記2つにわけて解説していきます。

不動産鑑定士試験の試験概要、スケジュール

不動産鑑定士試験は、下記のように「2段階」で行われる選抜方式となっています。

  • ①1段階目、短答式試験
    ②2段階目、論文式試験

1段階目の短答式試験は例年「5月中旬の日曜日」の、午前2時間、午後2時間の試験です。
出題される科目は、行政法規40問、鑑定理論40問で、それぞれ択一式で各100点ずつの合計200点満点です。

2段階目の論文式試験は、1段階目の短答式試験に合格した人のみが2段階目の論文式試験を受けることができます。
論文式試験は例年「8月1週目」の「土・日・月」の3日間で行われます。

科目が多いので、1日ずつ見ていきましょう。
【第1日目午前2時間・民法】
①出題数2問
②配点100点
【第1日目午後2時間・経済学】
①出題数2問
②配点100点

【第2日目午前2時間・会計学】
①出題数2問
②配点100点
【第2日目午後2時間・不動産の鑑定評価に関する理論】
(論文問題)
①出題数2問
②配点100点

【第3日目午前2時間・不動産の鑑定評価に関する理論】
(論文問題)
①出題数2問
②配点100点
【第3日目午後2時間・不動産の鑑定評価に関する理論】
(演習問題)
①出題数2問
②配点100点

以上が、1段階目の「短答式試験」と2段階目の「論文式試験」の概要とスケジュールです。

短答式試験に合格すると、短答式試験の3年間の免除が与えられます。
論文式試験に一度落ちてしまっても、合格までは2年間の猶予があります。
論文式試験に3回落選してしまうと、短答式試験からやり直さなくてはなりません。

短答式試験を合格した次の年に論文式試験合格を目指すと、スケジュール的に無理なく勉強することができます。

不動産鑑定士試験合格率、合格ライン、勉強時間の目安

その年によって合格率や合格ラインは変動しますが、例年の短答式試験の合格率は「約30%」。
合格ラインは、200点満中の「約140点」前後です。

次に、論文式試験の合格率は「15%」。
合格ラインは、600満点中の「約270点」前後です。

2段階になっている試験なので、スケジュールをしっかりたてて勉強することが大事です。
2つの試験をクリアするための勉強時間は、下記のように言われています。

  • ・短答式試験:約700〜1,000時間
    ・論文式試験:約1,300〜3,000時間

あくまで人それぞれなので目安ですが、この勉強時間が計り知れないことは間違いありません。
短答式試験は五肢一択のマークシートですが、論文式試験は白紙の紙に文字を書くので消去法での解答ができません。
論文は慣れも必要で、文章力を養うには多くの時間がかかってしまいます。
知識が正しくインプットされていないと文章を書くことは難しいので、まずはしっかり知識をインプットして「アウトプットする文章力」を養う必要があります。

資格を取得するには必ず勉強をしなくてはなりませんが、働きながら勉強するのは苦難の技です。
1日の中でいかに勉強する時間を作れるかで、半年後、1年後に大きな差が生まれます。

  • 例)
    ・1日5時間の勉強時間は
    ・1年で1,825時間
    ・2年で3,650時間

1年で短答式試験の合格を目指すなら十分な時間と言えるでしょう。
余った時間は論文式試験にあてて、短答式試験の翌年に論文式試験の合格を目指すと良いです。
勉強する時間を確保できる人は1年で論文式試験までの合格を目指せますが、仕事をしならがでは最短で2年かかるのが一般的です。
もちろん、中には仕事をしながら1年で合格する人もいますが、極めて稀なケースといえます。

実務修習

短答式試験と論文式試験に合格すると、実務修習を受けることができます。
不動産鑑定士試験に合格しただけでは、不動産鑑定士にはなれません。
むしろ、不動産鑑定士になるにはここからが本番と言っても過言ではありません。
この実務修習を受け、修了考査に合格することで「不動産鑑定士」になれます。

  • ・実務修習の概要とスケジュール
    ・実務修習の費用

実務修習を2つに分けて、下記で紹介していきます。

実務修習の修習概要、スケジュール

不動産鑑定士試験に合格すると、毎年12月からスタートする実務修習を受ける必要があります。
実務修習を受けるには下記2つの方法が代表的です。

  • ①指導鑑定業者として登録している不動産鑑定業者に就職
    ②実務修習に特化している実地演習実施大学に通う

①の方法は指定鑑定業者に就職して仕事をしながら実務修習を学んでいく方法です。
②の方法は実務修習の学校に通うようなイメージです。
どちらにするかは自由ですが、①の不動産鑑定業者に就職して仕事をしながら実務修習を受ける人が全体の7〜8割です。

この2つの方法で実務修習を受けますが、実務修習には1年コースと2年コースがあります。
1年コースも2年コースも修習自体の内容は同じで、ただ単に期間の問題です。

一見すると1年コースで良さそうですが、この実務修習の内容はかなり濃く、ハードスケジュールと有名です。
就職して仕事をしながら1年コースで実務修習を受けると業務に支障がでる可能性があるほどなので、近年は会社の方針等で2年コースを受ける人が増えています。

実務修習の内容は大きく分けて4段階になっています。

  • ①講義
    ②基本演習
    ③実地演習
    ④修了考査

順番に解説していきます。

①の講義はe-ラーニングでの受講となり、インターネットを使用して画面を見ながら勉強します。
各講義でテストがあり、3月までにすべての講義を終わらせる必要があります。
②の基本演習は修習生が集まり講義を受けたり、グループで鑑定評価書を作成する集合研修です。
年に4回あり、必ず参加しなければなりませんが、近年はコロナウィルスの影響で1回目と2回目はzoomを使用して受けることとなりました(今後どうなるかは確認が必要です)。
③の実地演習は実務修習のメインで、指導員のもとカテゴリーごとの不動産鑑定評価書を13件作成します。
④の修了考査は、ペーパーテストと面接(口述)の2つがあります。
すべての実務修習で認定をもらい、修了考査のテストに合格した人が不動産鑑定士になることができます。

実務修習の費用

実務修習を受けるには、受講料がかかります。
この費用は日本不動産鑑定士協会連合会への支払いと、実地演習実施鑑定業者または実地演習実施学校に支払うものがあります。
要するに、協会に払う費用とは別に前項の「修習概要・スケジュール」で解説した①と②の選択した方へ支払う費用があるということです。

協会に支払う費用は、下記の通りとなっています。
①講義 97,400円
②基本演習 172,700円
③実地演習 原則無料
・物件調査実地演習の審査料 2,500円
・一般実地演習の1演習あたりの審査料 89,700円
④修了考査 36,000円
合計 398,300円
(参照元:日本不動産鑑定士協会連合会 実務修習実施計画の公表について

それとは別に、選択した鑑定業者か実地演習実地大学に支払う費用が必要です。
鑑定業者に就職した場合はその業者によって費用は様々ですが実務経験となるので費用の減額や免除が受けられる場合があります。
大学に通う場合は減額や免除がなく、費用は修了考査費用を除く750,000円(税込)が必要です。
協会へ支払う費用を合わせると100万円を超える費用となります。
また、修了考査に合格すると不動産鑑定士の登録費用に60,000円必要です。

ちなみに、ハードな実務修習を受けて修了考査に不合格してしまった場合はどうなるのでしょうか。
大丈夫です、修了考査の合格率は例年85%ほどで、万が一不合格になってしまっても再試験という形で救済措置が施されています。
合格率は100%ではありませんが、救済措置も鑑みて問題ないと考えられるでしょう。

まとめ

不動産鑑定士になるには、難易度の高い不動産鑑定士試験に合格し、ハードスケジュールの実務修習を受け合格しなければなりません。
経済価値を決めることができる仕事に携わるには、高度な知識と正確な判断が必要だからです。

不動産鑑定士を目指すのであれば覚悟とお金が必要ですが、その知識と経験は紛れもない自分自身の財産となります。
それと同時に社会にとっても大変価値のある職業ですので、魅力を感じた方は志してみてはいかがでしょうか。