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測る人から図れる人へ。大崎電気工業による、次なる100年を担うスマートロック『OPELO』誕生ストーリー

計測制御機器の大手メーカーである大崎電気工業株式会社が、IoTを活用して「未来のあり方を創造する」サービスとして「watch series」を2018年より展開しています。シリーズのうちの一つである「home watch」は未来のIoT住宅を実現するもので、スマートフォンやタブレットのアプリケーションから、リモコン付き家電製品(エアコンやテレビなど)の操作と、部屋の状態(温度、湿度、照度、人の有無、ドアの開閉)の確認ができるというもの。そしてそのスマートホームを守る要とも言える存在が、スマートロック『OPELO(オペロ)』です。

OPELOは住宅に住む人の安全を守る存在でありながら、管理会社にとっても非常に使い勝手のよい機能をそろえているという点が非常に特徴的です。OPELOは一体どのようにして誕生したのか、計器メーカーである大崎電気工業がこの事業に力を入れるわけとはなんなのか。新事業推進室長である小野信之さんに、OPELO誕生の舞台裏を語っていただきました。

プロフィール

小野 信之(おの のぶゆき)

 

大崎電気工業㈱ 執行役員 新事業推進室長。東京電力に入社後、企画部門、事業開発部門にて新会社設立や新たなサービス開発、M&A、ベンチャー企業への投資等の業務に従事。その後、新たなサービスを自ら立上げ、ビジネスモデル立案、事業計画策定、営業推進まで全てを手掛ける。大崎電気工業(株)においては、新サービスである「ウオッチシリーズ」を立ち上げ、展開中。

次の100年で、新たなインフラを創出

− watch seriesは、「home watch」だけでなく「store watch」「farm watch」「town watch」「factory watch」と幅広く展開されるのですね。計器メーカーである御社が、この新事業に乗り出したのはどのような経緯があるのか教えてください。

「OSAKIグループはこれまで100年にわたり、電力量計やスマートメーターによって目に見えないエネルギーを “見える化” してきました。インフラの会社として、いつも世界を見守り続けてきたわけです。では次の100年は、どのように社会的な存在意義を出していけばよいだろうか? と社内で議論しました。そして行き着いたwatch seriesは、これまでの技術にIoTやAI技術を組み合わせることで、環境を計測し “見える化” するというもの。時に見守り、時に接続・制御しながら、人とモノ、人とサービス、人と人をつなげることで日々の暮らしやビジネスがもっと快適で安全になるインフラを創造します」

− なるほど、「見える化によってインフラを作る」という軸は変わっていないということですね。

「客観的には大崎電気が新しいことを始めたように見えるかもしれませんが、私たちにとってはあくまで、これまでの延長にある事業に取り組んでいると考えています。『見えないものを見える化して、安心を与える』という点は変えず、時代に合わせて事業の形を変容させているのです。今までの100年は “測る人”、そしてこれからの100年は “図れる人” になっていこうと」

− 軸はこれまでと変わらないとはいえ、新規事業ではありますから、社内にいろいろな反応があったのではないでしょうか?

「今後のOSAKIグループの100年をどうしようとなったときに、本社の若手を集めていろいろ議論するワークショップを開催しました。この事業は、そこから出てきたアイディアです。つまりボトムアップの事業であり、みんなで課題を共有していたので、そういう意味では戸惑いはなかったかと思います」

(BandB)toCという事業モデル

今回のテーマとなるスマートロック『OPELO(オペロ)』は、home watchの一環として開発されたものです。お話を伺うに先立ち、以下にOPELOの主な特徴をご紹介します。

【スマートロック OPELO(オペロ)】

①既存の鍵を残したまま配線工事なしで簡単設置
両面テープではないため、落下リスクもなく、ドアを傷つけずに設置が可能。電池残量がなくなっても外部給電が可能なため、安心して利用できる。

②ネットワークなしの安心セキュリティ
ネットワークを利用しないため、ランニングコストもかからず通信トラブルリスクもなし。維持費は電池代金のみ。

③さまざまなアイテムでの開錠方法
ICカード、スマートフォン、シリンダー錠、暗証番号など多数の方法で開錠でき、毎日鍵を持ち歩く煩わしさから解放される。また、紛失時の登録・抹消も自分で設定でき、お年寄りからお子様まで簡単に操作できる。スマートフォンでの開錠はNFC通信(スマートフォンなどをかざして通信させる規格)を活用しているため、アプリを立ち上げる必要もなく、Bluetoothより圧倒的なスピードで開錠が可能。NFC通信で開錠した場合にはLINEやメールに開錠通知を送付することもできるため、お子様の帰宅などが分かって安心。

④ワンタイムパスワードを活用した物理鍵なしの業務運用が可能
入居モードと空室モードの二つのモードを保有し、簡単パスワードで管理ができ、鍵の受け渡しや管理業務から解放され開錠の遠隔化・自動化が可能。また、パスワード発行履歴が残るため、いつ・誰がどの部屋のパスワードを発行したかが分かるためセキュリティも格段にアップする。このため、シェアリング・民泊ビジネスにも活用できる。

⑤情報セキュリティ管理規格「ISO/ IEC27001」を取得
「開錠履歴3,000件の保存」「オートロック機能」「不正開錠時の警報ブザー」など、高度なセキュリティ機能を搭載。

− OPELOは不動産管理会社を相手に展開されていますが、そこに商機を見出した経緯を教えてください。

 

「まず市場調査から始めたのですが、そこでわかったことは、不動産管理業は100年にわたり伝統的な方法で業務をこなしてきているということ。そこにテクノロジーが加われば、一気に業務効率化するポテンシャルがあると思いました。また社会情勢を鑑みても、人口減による賃料下落や人材の採用難の問題は必ず出てきますし、テクノロジーによる業務効率化の恩恵は大きいはずです。そうすれば管理業務が楽になるのはもちろん、当然その先にいるお客様の利便性も向上しますから、その両立をめざそうと考えました。

その中でも着目したのが、内見時や空室時の鍵管理や受け渡しなどにおける課題です。特に地方では担当エリアが大きく、鍵を一つ取り付けにいくだけでもばかにならない時間がかかっていました。その課題解決にチャレンジしたら大きなチャンスがあるのではと思いました」

−  デベロッパーやオーナー側にアプローチすることは考えなかったのでしょうか?

「賃貸物件は1700万戸ほどありますが、新築はほんの一部ですから市場の規模が全然違うのです。それに、私どものサービスはネット環境を必要としないため、既築物件の空室時にも稼働できる点が強みになると判断しました。また、そういった事情もありますが、やはり管理業者の課題解決に寄与することで、より多くの人の幸福につながるという点が最大の理由です。だからわたしたちは、この事業のモデルを『(BandB)toC』と言っているんです。管理会社と手を取り合って、入居者さまの幸せに貢献する。多くの人の生活を向上させるという大きなビジョンをもっています」

− 開発にあたって大変だった点を教えてください。

「すごくたくさんありますが、プロトタイプを2年間で5種類も作ったことはその一つですね。関係各所にひたすらヒアリングして何度も改良を重ねました。具体的にはセキュリティに関することや使い勝手の点など、管理会社によって少しずつ異なる要望に対応できるよう、ファームウェアをどんどん更新していきました。苦労の甲斐あって、管理会社からの評判は上々です」

 

− OPELOに対して印象に残ったのは、テンキーがついていることです。このアナログ感は意図的なものなのでしょうか。

「そうですね。なにせ不動産業界は100年間のアナログ文化が浸透しているので、いきなりITに寄せすぎてしまうと抵抗を示す方が多いと考えました。不動産会社の方だけでなく、鍵というものは幅広い年代の人が使うものですから、誰もが必ず使えるものでなくてはなりません。実際、OPELOはさまざまな解錠方法に対応していますが、使われている順位は上からテンキー、カードキー、そしてスマートフォンです。スマートフォンは一見便利に見えますが、アプリを立ち上げてペアリングして……と地味に工数がかかります。鍵はとにかくすぐ開くことが大事。さまざまな利便性は、その次にくるべきだと思いますね」

− 確かにその通りですね。他にも技術的に難しかった点はありますか?

「OPELOは後からつけるものなので、さまざまなタイプの扉に対応する必要がありました。しかし、この扉の種類というのがとてもたくさんあるんですよ。それらに対応するべく、オプションのパーツを20種類ほど作りました。おそらく、OPELOは日本で一番、幅広い扉に対応した鍵だと思います。管理会社だけでなく鍵の取り付け業者とも協働して開発したので、取り付ける人にとってもストレスの少ない鍵になりました。設置難易度の低さはこだわったポイントですね」

− 非常に洗練されたデザインも印象的だったのですが、どのように作り上げたのですか?

「外部のパートナー企業と一緒に進めていったのですが、もっとも重視したことはブランドの統一です。初めにめざすブランドをしっかり固めた上で、デザインに共通点をもたせました。そしてもちろん、使い勝手も大事ですから、機構の部分は開発陣と念入りにディスカッションしながら決めていきました」

 

今できることを、着実に。

− OPELOが本当にこだわり抜いた製品なのだということが理解できました。鍵業界に新風が吹き込みましたね。

「既存の鍵メーカーさんからしたら、『なぜ大崎電気工業が!?』という驚きがあったかと思いますが、わたしたちも勉強させていただく点がとても多くて、お互いによい意味で競争相手になれたらと思っています」

− 売れ行きや導入率はどの程度なのですか?

「契約ベースでいうと、内示を含めて現在、10万台程度です。右肩上がりで増えていて、全国的に導入されています。地域の偏りはないものの、火がつきやすいのは地方ですね。先ほども触れましたが、管理しているエリアが大きいから、自動化するメリットも大きいのです」

− すごい勢いですね! 

「ありがとうございます。不確実性が増している世の中ですから、もはや安泰はどこにもないと感じますし、常に5年後や10年後を見据えて、今できることを着実にやっていくのみです。マーケットはあとから追いついてくるので」

− watch seriesの行き着く未来はどんなものになりそうでしょうか?

「最終的に描いている未来は、スマートシティです。エネルギー中心ではなくて、ソフトウェア中心のスマートシティですね。それをインフラ会社として提供していき社会をデザインすることが、私たちにしかできないことであり、私たちがやるべきことだとだと認識しています」

力強く、確信をもってwatch seriesについて語ってくださった小野さん。お話を聞いているだけでわくわくしてきて、大崎電気グループが実現するスマートシティを早く見てみたいと感じました。

そして、リリース前につき今回はご紹介できないのが残念ですが、プッシュプルタイプの玄関ドアハンドルのサンプルも見せていただき、近未来的なスタイリッシュなデザインと実用性を兼ね揃えたデザインに取材陣は大盛り上がりでした。数年後にはあちこちでOPELOを見かけるようになるのかもしれません。「今できることを着実に」とおっしゃった小野さんの言葉を胸に、イタンジも「テクノロジーで不動産取引をなめらかにする」べくコツコツと取り組んでいきたいと思いました。